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家の内部でも、房一はしよつちゆう歩きまはつて何度も道具を置き換へていた。古風な玄関の広間はそつくり待合室になつた。つゞく二室は板敷にして薬局と診察室ができ上つた。壁ぎはに立てた大きな薬戸棚、油布張りの固い患者用の寝椅子、青いビロードのふつくり盛り上つた廻転椅子、縁枠を白く塗つた医療器具棚の中には真新しいメスや鋏、鉗子かんしなどがぴかぴか光つて、大事さうに並べてあつた。
「や、先日はどうも――」
「いつたい、今日は何ごとかの」
と、房一が声をかけた。
感心したやうに呟くと、房一はくるりと向ふむきになつて歩き出した。
と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。
「入りましたよ。それがねえ、穴の中は苔が生えたやうな、水たまりもあつてね、やつとこさ奥まで行つてみたんだが、まはりの土はぼろぼろ落ちるし、何のことはない洞穴でさあね、――それでも連中はあつちこつち突ついてみてたがね、含有量はまあもつと試掘してみなけりや判らんさうですよ」
「え、何です、前期と後期とをつゞけさまにうかりましたつて。――ふうん、それやえらいもんですな。なかなか、あの検定試験といふやつは、医学校なんかの年限さへ来ればずるずるに医者になつてしまふのとはちがつて、相当な目に合はされますからな」
と、微笑しながら頭を下げた。
「御焼香を。――どうぞ、お近いところから御順に」
「お噂はうけたまはつています」
と、全然ここの温泉を軽蔑しきっていたそうで、婆さんが絶え間なくタオルで全身摩擦しながら意地ずくでつかっている温泉とは何度ぐらいだろうと興にかられたが、調査もせずに引越した。
突然はじまつたこの二人の親密な往来を、小谷は苦笑しながら、半ば無関心で眺めた。女といふものは妙なことから仲よくなるものだ、と思つた。が、由子の口から盛子のことを聞くにしたがつて、彼は高間医院について満ざら他人でもないやうな気に自然となつた。